■猫の体重の約60%は水分
動物の体の中にはたくさんの水分が含まれています。たとえばクラゲでは99%以上が水でできており、人間や、犬・猫は体重の約60%ほどを水が占めています。
このように動物の体の中に含まれている液体のことを体液といいます。
体液の多くは細胞の中や細胞との間に存在していますが、ほかに「管」の中を流れて全身をまわっているものもあります。
この「管」のことを血管とかリンパ管とかいい、その中を流れているものを血液・リンパ液といいます。
■血液の成分
血液は血管の中を流れて、動物の全身をくまなくめぐっています。
猫の血液は、人間と同じ赤い色をした液体ですが、厳密に純粋な液体というわけではありません。
顕微鏡で見ると血液には数種類の固形成分(細胞成分)が含まれています。
血液中に含まれている細胞成分には赤血球、白血球、血小板といわれるものがあり、主に骨の中の骨髄というところで作られています。
赤血球には全身のあらゆる場所に酸素を運ぶ役割があり、白血球は主として色々な病原体から身体を守る働きをしています。
また血小板は、怪我をしたときに出血を止める作用をします。
ところで血液は赤い色をしていますが、これは赤血球の中に含まれているヘモグロビンという物質が赤色をしているためです。
血液から赤血球をはじめとする細胞成分を取り除くと透明な液体になります。
血液の液体成分は単に細胞成分を浮かべて身体のすみずみにまで送るためだけにあるのではありません。
この中には様々な物質が含まれているのです。
たとえば、全身の細胞に与えられるタンパク質や、体内で作られた老廃物などが含まれて運ばれています。
■採血−血液検査の第一段階
さて、血液検査を行うには、まず第一に血液を採取しなければなりません。
血液を採取することを採血といいます。
ヒトの場合、採血は通常、少量であれば耳から、多量を必要とするときは腕の静脈から行います。
一方、猫の場合には、耳から採血することはなく(まれに糖尿病で何回も少量採血しないといけない場合は耳から)、ふつうは前肢の静脈から行います。
また、ときには後肢の静脈からも採血します。
ただし、猫の四肢の血管は非常に細く、猫からの採血には高度の技術を要します。
獣医師の腕の見せどころでしょうか。
なお、四肢の静脈から十分な量の血液が採取できないような場合や、固まっていないやや多量の血液を必要とする場合には、首にある頸動脈から採血を行うこともあります。
■様々な血液検査
採血が終わると、次はいよいよ血液検査の実施です。
しかし、一口に血液検査といってもその種類は様々です。
動物病院で行われる血液検査は数十種類にも及んでいると思われます。
このような多種多様な血液検査ですが、大きく二つに分けることができます。
一つは血液学的検査、もう一つは血液化学検査とよばれるものです。
血液学的検査は、ある一定量の血液中の赤血球や白血球の数を求めたり、赤血球や白血球の種類別の出現頻度を求めたりする検査のことで、貧血の状態や種類がわかったり、感染症かどうかなどがわかったりします。
また、血液化学検査はおもに血液の液体成分中の各種の物質の量を測定するもので、血液中の糖の量(血糖値)を求めたり、肝臓や腎臓の機能が正常かどうかを調べたりするために行います。
■各種の血液検査とその目的
血液一般検査(CBC)
・なにを検査するのか |
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血液中の赤血球、白血球、血小板の数と形態、ヘモグロビン量、蛋白量、黄疸の有無と程度をみます。
また、ミクロフィラリアの有無もみます。 |
・どのようなときに検査をするのか |
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血液病が疑われるときのスクリーニング検査ですが、貧血や炎症などがわかるため、全身的に状態の悪いときや健康診断、麻酔前検査として広く実施されます。 |
・検査でわかる病気 |
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貧血や炎症、白血病などの血液病。高タンパク血症や低タンパク血症、黄疸。フィラリア症。 |
・検査を受ける上での注意 |
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検査値に変動がみられるため、なるべく空腹、安静が望まれます。 |
血液化学検査
・なにを検査するのか |
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血液は全身を循環するため臓器の情報が得られます。
血液の液体成分中に含まれる酸素や代謝物質、電解質などを測定して、種々の臓器の状態を評価します。
多くはいくつかの組み合わせ(表1)でスクリーニング検査として行われます。
CBCは漠然と異常があるかを調べる検査ですが、血液化学検査ではさらに突き詰めて、種々臓器や代謝状態を評価する検査です。 |
・どのようなときに検査をするのか |
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肝臓、腎臓、膵臓など内部臓器の評価をしたいとき、スクリーニング検査として全身的に状態の悪いときや健康診断、麻酔前検査に用いられます。
治療効果などをみるときなどには項目を選んで検査することもあります。 |
・検査でわかる病気 |
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(表2) |
・検査を受ける上での注意 |
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検査値に変動がみられるため、なるべく空腹、安静が望まれます。 |
血清検査
○血清ウィルス検査
・なにを検査するのか |
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現在、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の検査が一般的です。
FeLVはウイルス抗原の有無、FIVは抗体の有無、FIPVは抗体の量(抗体価)をみます。 |
・どのようなときに検査をするのか |
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ウイルス感染特有の症状がみられるときや頑固な貧血、病気がなかなか治らないとき。 |
・検査でわかる病気
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FeLV,FIV陽性ではこれらのウイルス感染が示唆されます。
FIP陽性ではFIPVが属するコロナウイルス感染は示唆されますが、FIPの診断は抗体価、臨床症状、血清タンパク泳動などを組み合わせて行います。 |
・検査を受ける上での注意 |
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とくにありません。 |
○血清フィラリア検査
・なにを検査するのか |
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フィラリア抗原の有無。 |
・どのようなときに検査をするのか |
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フィラリア感染が疑われるとき。(関西地方の感染率が高い) |
・検査でわかる病気 |
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フィラリア感染症。
血液一般検査でのミクロフィラリアの有無より検出率が高い。 |
・検査を受ける上での注意 |
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とくにありません。 |
表1
CBCの項目と解釈
項目 |
正常値** |
異常値を示す可能性のある病気 |
赤血球 |
5〜10×106 /μl |
増加:多血症、脱水、興奮
減少:各種貧血 |
PCV |
30〜45% |
ヘモグロビン |
10〜15g/dl |
平均赤血球容積(MCV) |
39〜55fl |
表2参照 |
平均赤血球色素濃度
(MCHC) |
32〜36g/dl |
白血球減少症 |
5,000〜19,550/μl/ |
増加:炎症、ストレス、興奮、白血病
減少:骨髄抑制、汎白血 |
桿状核好中球 |
0〜300/μl |
増加:炎症、感染症 |
分葉核好中球 |
2,500〜12,500/μl |
増加:炎症、興奮、ストレス |
球減少症 |
|
減少:骨髄抑制、汎白血 |
リンパ球 |
1,500〜7,000/μl |
増加:興奮、リンパ系腫瘍
減少:ストレス |
単球 |
0〜850/μl |
増加:慢性炎症 |
好酸球 |
0〜750/μl |
増加:アレルギー
減少***:ストレス |
好塩基球 |
まれ/μl |
増加:アレルギー |
血小板 |
300-800×103 /μl |
増加:出血、鉄欠乏
減少:自己免疫、骨髄抑制、DIC |
総タンパク |
6〜8g/dl |
増加:炎症、感染症、脱水、FIP、多発性骨髄腫
減少:栄養不良、肝障害、腎障害 |
フィブリノーゲン |
100〜400mg/dl |
増加:炎症 減少:DIC |
黄疸指数 |
<5 |
増加:肝臓病、胆管閉塞、溶血 |
**年齢、地域によって変動がある。 ***特時的にほとんど見られない場合を減少とみる。
表2
ネコの血液化学検査
項目 |
略号 |
正常値* |
異常値を示す可能性のある病気 |
総タンパク |
TP |
6〜8g/dl |
増加:炎症、感染症、脱水、FIP、多発性骨髄腫
低下:栄養不良、肝障害、腎障害 |
アルブミン |
Alb |
2.6〜3.9g/dl |
増加:脱水
低下:栄養不良、肝障害、腎障害 |
総ビリルビン |
T-Bil |
0〜0.5mg/dl |
増加:胆管肝炎、胆管閉塞、溶血 |
アルカリフォスファターゼ |
ALP |
10〜200IU |
増加:胆管肝炎、骨疾症、ステロイド剤 |
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ |
AST |
0〜48IU |
増加:肝障害、筋炎、心筋炎 |
アラニンアミノトランスフェラーゼ |
ALT |
10〜120IU |
増加:肝障害 |
yグルタミノトラン |
GGT |
0〜1IU |
増加:胆管肝炎、肝障害、ステロイド剤 |
アミラーゼ |
Amy |
500〜1500IU |
増加:膵炎、腸炎、腎不全 |
総コレステロール |
T-Cho |
65〜225mg/dl |
増加:糖尿病、膵炎、胆管肝炎
低下:肝障害 |
血糖 |
Glu |
76〜145mg/dl |
増加:糖尿病、ストレス
低下:インスリノーマ、腫瘍、栄養不良 |
尿素窒素 |
BUN |
16〜36mg/dl |
増加:腎機能障害、脱水、尿路閉塞
低下:タンパク質欠乏、肝障害 |
クレアチニン |
Cre |
0.8〜2.4mg/dl |
増加:腎機能障害、筋障害 |
ナトリウム |
Na |
140〜150mEq/L |
増加:嘔吐、下痢、腎障害、脱水
低下:嘔吐、下痢、腎障害、副腎不全 |
カリウム |
K |
3.5〜5.5mEq/L |
増加:嘔吐、下痢、腎障害、副腎不全
低下:嘔吐、腎障害 |
クロール |
Cl |
115〜125mEq/L |
増加:下痢、代謝性アシドーシス
低下:嘔吐 |
カルシウム |
Ca |
7.8〜11.3mg/dl |
増加:腎機能障害、上皮小体機能亢進症、腫瘍
低下:子癇、二次性上皮小体機能亢進症 |
無機リン |
P |
3.1〜7.5mg/dl |
増加:腎機能障害、二次性上皮小体機能亢進症
低下:栄養不良、上皮小体機能亢進症腫瘍 |
*年齢、検査機器、地域によって変動する。
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