本はあてにならない−その1
ブリーダになろうと思って以来、猫の繁殖に関する本は手に入る限りすべて読みつくしました。
本には確かに役にたつ情報が載っています。
ところが困ったことに、わが家の猫たちは字が読めないので、私が「本のとおりにしなさい」と言っても、まったく聞く耳をもたず、自分たちのやりたいようにするのです。
たとえば発情の周期について、本には
「雌猫はおよそ1歳で最初の発情をむかえます。
発情のサインは普通明らかにわかるもので、雄をもとめて大声で鳴き、地面に体をこすりつけ、腰をもちあげ尻尾を横によけて後脚で足踏みをするポーズをとります。
発情の周期はおよそ3週間で、発情中の雌は雄を受け入れられる状態になります。」
とあります。
ところが、家の女の子たちときたら、6ヶ月や16ヶ月で最初の発情がくる子はいても、標準的な1歳前後で発情をむかえたためしがありません。
おまけに、かりにも周期と呼べるように規則的な発情する子は今までいたことがありません。
誰にも気づかれないように静かに発情する子もいれば、3ヶ月発情しっぱなしの子や、妊娠中や授乳中に発情する子もいます。
おまけに、どの子も私が相手に選んだ雄猫の周囲5キロ以内では、絶対に発情しないのです。
交配に連れていく車の中で、ずっとお尻をもちあげてキャリーにこすりつけて発情の真っ最中であっても、なぜか雄猫のところへ着いたとたんにぴたりと発情がやんでしまいます。
そして、冷たく雄猫をにらみつけたまま、3ヶ月間も相手を拒みつづけ、結局私たちがあきらめることになるのです。
そのくせ、いざ家に帰るとなると、帰りの飛行機の中でまた発情がはじます。
そう、家の女の子たちは、カブキにくびったけなのです。
色男“カブキ”
わが家のカブキは去勢済みの雄猫で、去勢済みにもかかわらず交尾をやってのけるというおどろくべき才能のもちぬしです。
どうやら、家の女の子達にとって、カブキは人間に例えればメル・ギブソンのようなセクシーな魅力があるようです。
前に獣医さんから、去勢するとおちんちんのトゲトゲがなくなるという話を聞いたことがあるのですが、もしかした らそのせいでカブキの方がいいのかも。。。とまあ、この話はこのへんにしておきましょう。
はじめは、私も何がおこっているのか気づかずに、女の子たちがカブキを誘惑しようとしている姿がかわいいと単純に思っていました。
結局、女の子たちが55日の周期で発情を繰 り返す(想像妊娠する)理由に思いあたるのに、2年ぐらいかかりました。
色々な本を読みあさりましたが、「おかま」の方が好きな雌猫について解説した本は一冊もありません。
カブキは女の子にもてることをとても自慢に思っていて、ことあるごとに現役の雄猫であるサンダ―にそれを見せつけます。
カブキが熱烈な崇拝者をハーレムのように引き連れて家中をねりあるき、女の子たちはいっせいにサンダ―に向かってあっかんべーをするのです。
当然のことながら、サンダ―とカブキは仲がよくありません。
図体は3倍も大きいくせにおつむの弱いサンダ―は、かぼちゃのようにまんまるなカブキにとうていかないません。
カブキにちょっと突き飛ばされただけで、よろけてぶざまに床に倒れ、勝負は簡単についてしまいます。
かわいそうなサンダ―はすごすごと部屋のすみに引っ込み、カブキは大いばりでこれみよがしに体をなめはじめ、女の子たちはいっせいに「我らがヒーロー」カブキのもとに駆け寄るといった具合です。
空中の合体
こんなサンダ―でも、カブキにはない特別な能力をもっています。
その能力とは、発情中の女の子を見分ける才能です。
ところが、すばらしい本能をもっているにもかかわらず、おつむの配線がゆるいため、この本能をどう使うかに難点があるのです。
家の黒白バイカラーの“ツナミ”は、静かにおとなしく発情するタイプの女の子です。
サンダ―と9月に交配し、めずらしく「本のとおり」にことは進みました。
つまり、予定通り乳房がピンクアップし、体重も増えたのです。
出産予定日2週間前のことでした。
私の目の前で、サンダ―がいきなりツナミに乗りかかっていったのです。
びっくりして、サンダ―をツナミから離し、ツナミを抱き上げて、サ ンダ―に向かって「この時期にそんなことをするなんて全く無責任で、紳士のすることではありません」とやさしく言いきかせました。
サンダ―は一瞬私のことをみつめたあと、いきなりジャンプして、私の腕の中にいるツナミに飛び乗りました。
サンダ―が飛び乗ってきた衝撃で私は投げ出されて仰向けにひっくりかえり(まるでボーリングの玉を受け止めたようなショックでした)、その間にサンダ―とツナミは空中で交尾をおこなったのです。
私がなんとか起き上がる間に、すでにことは終っていて、当然のことながらサンダ―はさっさと避難していました。
ツナミはというと、手近にサンダ―がいないので、代わりにこちらを振り向いて私の顔をおもいっきりひっかきました。
私は夫のダンのところへいって、「今回も本のとおりにならなくて、ツナミは妊娠していなかった。」と苦々しい気分で伝えました。
ダンは、「まあ、サンダ―の方が正しかったのだから、サンダ―が本のとおりにしなくて良かったじゃないか」といったのです。
よく考えてみると、我が家の女の子たちはまだ比較的本のいうとおりにしているほうです。
ところがサンダ―は、いつも大事なところがぬけているので、なかなか目的地にたどりつけません。
サンダ―には毎日決まってすることがあります。
自分の部屋のドアが開いていると、いつも女の子たちの部屋にやってきて猫トイレに直行し、発情中の子がいないかおしっこの匂いをチェックするのです。
猫トイレにいきつく途中に、お尻をもちあげてしっ ぽを横によけたポーズで今か今かと待っている女の子がいても、まったく目もくれません。
サンダ―はまず、5分ほどかけて熱心にトイレをかぎまわり、口をあけて鼻を精一杯ふくらませておしっこに込められたメッセージを一生懸命に解読します。
この間をぬって、カブ キはサンダ―の部屋の猫トイレに直行し、ライバルが来たことを知らせるために、そこにおしっこをしておくのです。
やっと見つけたぞ!
サンダ―は、トイレのメッセージに満足すると、ブラッドハウンド犬のように匂いのあとをたどって、発情中の女の子の足跡を追跡しはじめます。
匂いをたよりにその日一日に歩いた足取りを一歩一歩追っていくのです。
結局、15分ほど狭い部屋の中をぐるぐると回っているだけなのですが、なぜか追跡の途中で当の女の子がすぐそばにいてもまったく気がつきません。
最後になって、探していた女の子のお尻に鼻先がぶつかってはじめて、「おお、これだ。ようやく探し当てたぞ!」ということになるのです。
部屋をかぎまわっているサンダ―を軽蔑のまなざしでみていた女の子のほうは、「このバカ、いったい何やってんのよ」と呆れ顔です。
サンダ―の理解能力では(というか理解能力の不足では)、部屋の中央で「典型的な発情のポーズをとっている子」イコール「発情中の子」ではないかという簡単な計算ができません。
そこで、いつもまず猫トイレのチェックからはじめて、順番にさがしていかなくてはならないのです。
もちろん、色々と本をあたってみましたが、ジャングル探検隊のまねをして雌をさがしあてる雄猫や、ブラッドハンド犬のふりをするメインクーンについて書いてあるものは一つもありませんでした。
まあ、少なくともサンダ―は、獲物を探し当てたときに、ブラッドハウンドのように空に向かって雄たけびをあげることはないですけれども。

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